神楽坂宗司×宗像廉

「ずるい」はどっち?

普段から宗司に対して「ずるい」という思う事が多く、そう言葉にする廉くんだけど、そんな廉くんだって宗司からしたら……。
という、お互い様だよなっていう他愛ないお話。
(特に作中では言及してませんが、季節は冬です。)

 幼馴染はよく自分に対して"ずるい"という言葉を口にする。

 しかし、宗司の方からしてみれば。


「廉の方がよっぽど、だよなぁ」

「え? 俺?」


 不意に口にされた自分の名前を聞き逃すことなく、廉が反応した。が、特にその疑問に答えることはしなかった。廉からも、少し不満そうな、呆れたような、そんな「もう」という小さな声が聞こえただけで追及はされなかったので、そのまま思考に意識を戻す。

 宗司からしてみれば、自分の方が余程"そう"思う事の方が多い、と思う。こうして今啜っているホットココアも、帰寮時間を見越して廉が用意していてくれたものだ。狙った気遣いではなく、そうすることが当たり前と言わんばかりに差し出されたこれは、ミルク以外の甘さを含んでいる気がした。


「……れーん」

「今度はな、に――っ、」


 飲み干したカップをテーブルに置いて名前を呼ぶと、何かを察した廉がほんの少し体を固くする。それを隠すような平静の装いに、少し可笑しくなりながらも顔に出すことはなく、ソファーに押し倒した。

 自分でも思わず間延びしてしまった呼び声に、普段より糖が混ざった気はしたけれど。まあそれは致し方ないだろう。


 見下ろした先には、見た目よりも存外柔らかいソファーの生地に廉がゆったりが沈んでいる。


「ちょっと、ここ共ゆ、う……ん、」


 廉のお小言には知らん顔。そのまま廉をソファーに埋め込むように深く、深くキスを贈る。抵抗の力は次第に緩んで、最終的には縋るように宗司の服をぎゅう、と掴んでいた。

 顔が離れてから最初に目に入った廉の瞳は、物欲しげに潤んでいる。――今日はいつもよりも早い、ということは。


「は、ぁ……もう、誰か来たら……」

「じゃあ、部屋ならいいのか?」


 "どうするの"。廉の言葉の先を読んで訊く。

 その答えを口にするのを少し躊躇ってから。廉は気恥ずかしそうに視線を外した。


「…………それ、なら」


 ――ああやはり。

 こういう欲には淡泊な方だと思っていた幼馴染が、意外にもそれをしっかり持ち合わせていたことを知ったのは恋人として付き合いだしてから。時にこうして素直に自分を受け入れるし、頻度は減るが、自分から、というのも無くは無い。


「運んでやるからちゃんと掴まってろよ」

「う、ん」


 宗司の言葉に頷いて、控えめな手つきで、けれどもしっかりと首に回された腕。

 これは珍しい。てっきり「自分で歩ける」と却下されると思っていたのに。

 めったに見れない廉の様子に驚いた宗司は。


「……珍しいな、お前が甘えてくるの」


 自分よりも小柄なその体を軽々と抱き上げて、思わず思っていたことをポロリと零してしまった。それを聞いて廉は一つ瞬きをすると、じわじわとその頬に熱を集めていく。それが顔全体に広がるのにそう時間は掛からなかった。

 ……無意識か。


「…………やっぱり自分で」

「よし、じゃあ行くぞー」

「わ、あ、ちょっと宗兄!」

「暴れると落ちるぞ?」


 相手は180cmを超える。羞恥心よりも落ちる恐怖の方が勝ったらしい。

 廉はすぐに大人しくなったが、羞恥も捨てきれなかったらしく、顔は見せないようにと宗司の胸元に埋めてきた。その仕草も宗司の情欲を煽ることに気づいていないのだろう。全く恐れ入る。


「……ほんと、宗兄はずるい」


 こんなの逃げられないじゃないか、なんて。


 "どっちがだよ"。


 胸の内でひとりごちた。


Fin.