神楽坂宗司×宗像廉
隣には君、隣には貴方
クリスマスな宗廉の一コマ。
12月25日、クリスマス。
周りの雰囲気からか、どうにも気持ちは逸って仕方ない。何かしたいのか、と言われればそういうわけでもないのだけれど。
行儀が悪いとは分かりつつも、ぽすりとソファーに横になって眺めたテレビには、「クリスマスのおすすめデートスポット」なんて特集が流れ出して、より彼の存在を恋しくさせた。
「……早く帰って来ないかなぁ」
「帰ったぞ」
突然落とされた声と頭を撫でる手に、飛び跳ねるようにして体は起きる。その犯人を目が捉えると、彼はくつくつと笑っていた。
「び、びっくりした……」
「一応、共有ルームに入ったタイミングで声掛けたんだがな」
それに気づかない程に、自分の中の彼へ想いを馳せていたのか。
自覚をすれば、顔にはじわじわと微熱が広がる。
「で? 誰を待ってたんだ?」
そんな分かりきったことをわざわざ訊いてくるこの幼馴染は意地悪だ。
分かっているくせに、と睨むと、彼はまた可笑しそうに笑いを零す。
「冗談だ。ただいま、廉」
「……おかえり、宗兄」
言葉と一緒に頬に落とされた軽やかなキス。まだまだこの恋人の距離感には慣れないなぁ、と内心苦笑する。
でも嫌じゃない、むしろ、……結構好きかもしれない。
「デートスポット、ね」
脈絡のない呟きに、疑問符を浮かべながら宗司の視線の先を追う。
そこには、先程まで自分も眺めていた特集が流れていて、慌てて弁解の言葉を探した。
「こ、これはたまたま点けたらやってただけで……」
「廉、ちょっと外出ないか?」
「へ?」
しかし、宗司は廉の弁解を気にも留めず、またも脈絡なく話をし出す。それに今度は音付きで疑問を返せば、宗司はふわりと微笑んだ。
「駅前のイルミネーションが綺麗だったんだよ。まだ夕飯まで時間あるし、観に行かないか?」
「それはいいけど……。宗兄がそういうの好きなのなんか意外……」
「意外ってお前な……。……いや、まぁ、なんつーか」
急に歯切れが悪くなり、視線を廉から逸らした宗司をまた不思議に思いながらも、続きの言葉をじっと待つ。
「やっぱクリスマスだからだろうな。観に来てるやつらもだが、あちこちカップルばかりでさ……」
変わらず視線を逸らしたまま続けられた言葉が一度途切れた。
そして宗司は廉の方に視線を戻すと、照れ臭そうに笑い、誤魔化すように廉の頭を撫でる。
「わっ……」
「何で今隣にお前が居ないんだろうな、って思ったんだよ」
「――……っ」
その言葉に胸が熱くなるのが分かった。
宗司の手によって俯かされた顔を上げようとすると、その手がそれを阻む。
「……ちょっと今こっち見んな」
「何で?」
「あー……多分、顔赤い」
「ずるい! いつも俺には隠させてくれないくせに!」
ぐぐっ、と顔を上げるのに力を込めれば、観念したように宗司の手は離れていく。
その顔は本人が言う様に、ほんのり赤みが差していた。この幼馴染でも照れることがあるのか、と変な感動を覚える。
「あんままじまじと見るな。それよりほら、行くのか? 行かないのか?」
「い、行く! 行きたい!」
駅前のイルミネーションは今月に入ってからずっと飾ってある。実際、幾度かこの目で見ているし、とても綺麗だった。
それに加えて、クリスマス前日と当日限定で更に装飾が施されると聞いている。それはさぞかし綺麗だろう。
そんな光景を見て来たのに、寂しく思って終わるなんて勿体ない。
……と、いろいろ言葉を内心で並べてみたものの、結局は自分が宗司と一緒に観に行きたかった。
返事が思わず勢いのいいものになってしまった廉に、宗司はクスリと笑みを零す。
「じゃあ、ほら準備して来い。外は寒いぞ」
「うん。すぐ準備するから待ってて」
「ちゃんと待っててやるから慌てんなよ」
パタパタと自室に向かう背に声が掛けられて、変わらず跳ねたような音の返事を返す。
宗司も先程の自分と同じような事を思っていた事実に、少なからず浮かれてしまう気持ちを何とか落ち着かせて。
彼とのささやかなクリスマスデートのため、身支度を始めた。
Fin.